Sindyの事件簿
Sindyに訓練らしきことを本気でしなければと思ったときすでに2歳になっていました。
「2年かけて培ったものを直すのに2年かかります」ときっぱり言われました。それにはまず飼い主の私を治さなくてはいけませんでした。その詳細をお伝えする前にやはり、Sindyがいかに大変なことになっていったか、順不同に思い出すままお話しておきたいと思います。
飛びつきの問題
うれしいといっては飛びつく、ほしいといっては飛びつく。
怒っても止まらないノンストップ・ミュージックのようなものです。しかも人間は誰でも自分のことを愛してくれている、みんなお友達、くらいに考えているようです。
ある木枯らし舞う秋の日に、むこうから白いマスクをした犬連れのご婦人が歩いてきました。擦れ違いざま何を思ったかSindyはいきなりご婦人に飛びついて白いマスクをはずしてしまったのです。はがしたマスクをくわえて得意げなSindyと唖然とする奥さん。平謝りで泥とよだれのついたマスクをお返ししました。幸い犬連れであったためか許してくれました。偶然かとおもいきや、今度はその数日後グランドでまた、今度は黒いマメシバをつれたロマンスグレーのおじさまのマスクをジャンプはずししてしまったのです。これは確信犯です。完全に犬にさきを越された飼い主はまた平謝りでした。なぜマスクなのか。それはわかりませんが飛びついてはずすことに面白さをみいだしたのでしょうか? 夜のグランドではプードルやパピヨンといった小型のわんちゃんとよく遊んでいましたが、ここでも問題がおきてきました。体の大きいのを良いことにほしいおもちゃがあると小さなわんに軽く体当たりしておもちゃをとりあげてしまうのです。まぁ、かつあげかゆすりのようなものです。
「返しなさい!」といくら怒ったところで面白がって私から逃げ回ります。いいようにこちらが弄ばれてしまいます。そしてやっとの思いで捕まえるとおもちゃをわたさずに飲み込んでしまいました。
悲しいやらなさけないやらで私はSindyに馬乗りになって首根っこをつかんでゆさぶっていました。
「Sindyちゃんのまま怖い」「Sindyがかわいそう」などの声がきこえていたにもかかわらず・・・。
(おもちゃはラテックス製であったため、1ヶ月後にすべて排泄されました。ある元旦の朝の便のなかにおもちゃの象の目が二つ並んでみえたときは、あの事件を再び思い出して悲しくなりました) 訓練をしよう、と言う思いが決定的になったのはこんな事件からです。
それは・・・
人糞大量摂取と嘔吐事件
新宿駅の西口広場からホーム
レスの人たちが追い出されたあと、新宿近辺の小さな公園にも行き場を失った人たちが寝泊りするようになりました。そしてこれが問題なのですが、その人たちの中にはトイレを使わない人もいました。つまり草の中やひどいときには石の階段のわきなどにそのまま垂れ流してしまうのです。
折も折、そんな人間の排泄物が公園の一隅にひっそりとあったのです。ひとしきり遊んだSindyは鼻の良さからとっくにそこにあることを認識していたようです。ちょっと目を離したすきに一目散に人糞(以後カレーと表記)のところへ飛んで行き、ぱくぱくと食べ始めたのです。
「キャー、何食べてるの!!やめなさい!!」と叫んで首根っこを押さえましたが、口のまわりはカレーだらけで臭いがプンプン。この世のカレー地獄でした。
しかも同じ犬仲間から「昨日浮浪者がこちらむきにお尻を出して用を足しているのを、そういえば見たわ」との証言もありました。
すぐに水道のところへ直行し、口の中も外も洗いながしました。続きは家のお風呂場でシャワーを使ってがばがばと洗いました。鬼のような形相で無言で口を洗う私はSindyにどうみえていたのでしょうか。
口を洗ったあと居間に移動したSindyは、一呼吸おいて思いっきり今公園で食べてきたものをもどしました。フローリングの床一面に・・・。冬場のホットカーペットの敷いてある時期でなくてよかったと不幸中の幸いに少しだけ感謝しました。その掃除もまたこの世のカレー地獄でした。たまたま2階にいて何も知らなかった夫が階段を下りてきて臭いに絶句していました。不幸中の幸いがもうひとつ、夫はあきれながらも決して怒ったりせずまた2階へとあがって行ったのでした。 トレーニング どのようなトレーニングをしたか。おおまかにいうと、「いけない」でやめる、「待て」でとまる、「おいで」でこちらにくる、それだけです。おすわり、おあずけ、ふせは十分にできていました。しかし問題は明るく元気なSindyが調子にのってはりきったときには一切聴く耳をもたなくなることなのです。そして怒ろうとすると面白そうに逃げ回ることです。 方法はまず首輪をチョーク(ひっぱると首が締まる首輪)に替え、その先にリードとして10mのザイルをつなぎます。(訓練用のロングリードは高いものですが、山用品のお店でザイルを切り売りしてもらうと安くて済みます。運がよければザイルの端切れにちょうど良いものが特価でみつかるかもしれません。)ほかのわんちゃんの足に絡んだりしないように常に注意が必要です。みなさんずいぶん我慢してくださったと思います。犬を放して自由にしているときに、悪さを急に止めたいと思ったとき、このザイルをたとえば「いけない」の合図とともに足で踏んでおさえるのです。飼い主から離れて自由にしているつもりでいたSindyがこのときギャフンとなりました。勝手に走って飼い主を無視したり、ぬいぐるみを持って歩いている子供の手からそれをもぎとったり、しようとした瞬間にリードを踏まれてギャフンです。これにはタイミングが大切で、先生にいつも怒られるのは私でした。ザイルを踏むのと「いけない」のこえ掛けのタイミングです。そのコツがつかめてくると、Sindyは逃げようと思っても「いけない」の声の後ではもうリードを踏まれていて逃げられないことがわかり、そこで止まるようになります。そして10mあったリードをその半分の5mにします。同じように続けてうまくいけばまた半分の長さにしてみます。もし失敗がつづくならまた長くしてしまいます。「まて」「いけない」「おいで」全部これでマスターします。
先生のコメントでは「こんなに訓練のはいりやすい子いないよ。訓練大好きだね。のみこみも早い。」だそうなのですが・・・。
最終的に長いリードはなくなり、リードをつないでいたナスカンとお印ばかりに残したザイルだけになります。ナスカンは『長いのがまだつながっていて勝手なことはできないんだぞ』と思い出させるためにわざと重くて存在感のあるものにしておくのです。
今ではチョークカラーに普通のリードをつないであり、放してもよさそうな条件のところでは単にリードをはずしています。 トラウマ 誰とでも仲良しで、少しばかり乱暴な子のほうが遊んでいるときにスリルがあって好きというくらい元気いっぱいのSindyでしたが、ある事件をきっかけに仲良し歯車が狂ってしまいました。それは・・・ 8ヶ月のころから一緒に遊んでいた、ダルマシアンの女の子とのあいだに起こった事件でした。Jちゃんは元気いっぱいの女の子でどちらかというとほかの犬達は彼女が来ると引き気味でした。しかし負けないくらい元気なSindyには格好の遊び相手になりました。疲れを知らない走りっことおいかけっこで、目で追うのが大変なくらい。ところがある日、Jちゃんのお母さんが捨てられたか迷ったかした、年老いたポメラニアンを拾ったのです。そのポメちゃんの飼い主さんがみつからないまま、最終的にJちゃんの家族になりました。Jちゃんはおもしろくなかったのでしょう。次第にストレスをためてゆき、時折人にも犬にも噛み付くようになってゆきました。
そんなある日、Sindyを連れていつもの公園の階段を降りてゆくと、先にきて放されていたJちゃんがいました。こちらに向かって走ってきたと思いきや、いきなりリードに繋がれたままのSindyの首にがぶり。負けじと噛み返すSindy。とっさのことでリードをひきましたが間に合いませんでした。Jちゃんの耳からは鮮血が滴り落ちています。
これだけではなく、その後再び会ったときもいきなり飛び掛ってきたため、Sindyはすっかり犬に対して警戒心が強くなってしまいました。特に首周辺に相手の口元が近づくと、すばやい動きで先手を打とうとします。つまり噛んでしまうのです。これには本当に参ってしまいました。今でも初対面のwanちゃんには、細心の注意を払ってでなければ近づけることはできません。
|