9月28日 1


昨夜はマークス&スペンサーでNさん親子と晩御飯を買い、ホテルのお部屋で一緒に食べた。
驚いたことにイギリスの大きなスーパーの食材売り場やお惣菜コーナーでは、
たいていSushiが売られている。
中華街で食べたタイ米の味を思い出しながら、ちょっと太巻きも味見してみたくなって購入した。
おいしいのはヨーグルトとパンだけだった。

今日は全て一人で行動するので地図と地下鉄路線図を良く見て、たずねる場所の順番と乗る地下鉄の終点駅を確認し、メモにまとめる。そうでないと日本のようにやれどこ行きが何番線から出ます、とかお下がりください、あぶないですよ、次はどこそこ、などという至れり尽くせりの放送はないからだ。
それにあまり途中で地図ばかり見ていると「とろいやつだ。ツーリストに間違いない」とばれてしまい、
金品を狙われかねない。しかしイギリスの人たちの名誉のために言っておくが、うっかり地図に見入っていたら「どこへ行きたいの?」とむしろ声をかけて道を教えてくれた親切なおじさんもいた。

地下鉄はイギリスでは「Subway」ではなく「Underground」もしくは「Tube」である。Subway は地下道なのでアメリカ人たちは地下鉄と間違えてみんな地下道に入ってしまうらしい。
まず駅でOne day Travelcardを購入する。ゾーン1〜2を一日何回乗り降りしてもこれ一枚で済むというお得なカードだ。疲れたり迷ったりしたらすぐにおしげなく地下鉄に乗れるので便利だ。

メモを握り締めてまず、最初の目的地である「ジョン・ソーンズ博物館」を目指す。最寄の駅は地下鉄のホルボーン駅である。ソーン卿というのはイングランド銀行を設計した人物で、卿の住んでいた自宅が現在博物館として公開されているのだ。美術品のコレクションもすごいが家そのものがまた、かなり興味深い。
例によって入場料はなく、ただ入り口で寄付をつのっている。最低2ポンドほどを入れればよいと思う。
荷物は初老の紳士が入り口であずかり番号札をわたしてくれる。
その札がよれよれの白い小さな紙で数字は手書きだったので、切符でもなんでも手の汗でしわくちゃにしてしまうわたしは用心してそれをポケットにつっこんだ。


これが博物館の入り口。左にOPENの札が下がっている。
すぐ近くに大きな公園(リンカーンズ・イン・フィールズ)があって空気がすがすがしい朝だった。


見終わって建物を見上げる。
玄関を入って右側の書斎がすばらしく、おそらく残されていた書物も大部分が当時のままであろう。
内部の写真撮影は禁止されていたのでお見せできないのが残念だけれど、
ダイニングルームもすばらしかった。
そこでは天井にうがたれたドームが、おだやかな光を室内に満たしていた。

次にわたしがむかったのはセント・ポール大聖堂である。
ここも4年前に訪れているが、もう一度今度は自由に見学したいと思っていた。
その壮大さと設計したレンに魅了されていたのだ。だから再訪できることの喜びは
とても大きかった。
地下鉄の駅にもどりそこから「セント・ポールズ」の駅まで再び乗る。
建物の周りには足場がくまれてなにやら大改修中のもよう。
一瞬はいれないのかと思ったら、「Open as usual」の文字にほっとする。


写真がこれしかないのは足場のせいである。
ここの設計をしたクリストファー・レンという人はおそらく天才だったのではないだろうか。
彼は天文学者にして数学者で科学者でもあった。

聖歌隊席、モザイク、天井の装飾、数々のモニュメント、全てが歴史をものがたっている。
イギリスの人々の宗教的なよりどころだったのであろう。
今回はじめて一番奥まで歩いていって、第二次世界対戦によるアメリカ人戦没者のための礼拝堂があることに気が付いた。
その荘厳さに酔ってじっとみつめていると心の声が聞こえてきた。
「自国の文化についても誇りをもて。人様に説明できるようになれ」と。

日本人にとって最も違和感があるのは地下のカタコンブかもしれない。
たくさんの人々の記念碑、墓碑、棺が納められている。目立って大きいのはウェリントン公の棺である。
ネルソン提督の棺もある。クリストファー・レンその人の墓碑もあり、記念碑としてはナイチンゲールやロレンス(アラビアのロレンス)のものなどもある。
そして床面を良く見ると、それが墓石を兼ねているかのように、人の名前が刻まれており、下にはその人が眠っているのだ。わたしはこわくて踏むことができないので、アヒルのようにぎくしゃくと、名前のある石を避けながら進んだ。
前回も今回もここはちょっぴり怖い。
しかもとても怖い棺を発見してしまった。この人も英雄の一人なのだろう。
どうこわいかというと、棺の上に亡くなったときの姿の彫像が寝かせてあるものがいくつか見受けられるのだが、この棺もそのタイプで、軍服を着た人物が寝ているのだが、なんと、両手、両足ともに途中から引きちぎられたように無くなっているのだ。どんなに苦しい死であったかと思うと悲しみと恐ろしさが一度に押し寄せてきて、夜ホテルに帰ってからも、時々思い出してしまった。

さらに日本人にとって不可思議なのはこのカタコンブと同じフロアーに「墓場カフェ」という
オープンの喫茶室があって、みんなそこで「普通に」お茶などいただいているのだ。
まったくもってわからん。早く出たい。

セントポールをでてからイングランド銀行や旧王立取引所の方に向かって歩いた。
駅は文字通りバンクという駅だが歩いてもそれほどの距離ではない。


ロンドン初の屋内証券取引所である、旧王立取引所。


豪勢な建物だが中はなんと高級ブランドショップに変わっている。
前回訪れたときは閉鎖されていた。
ここで買い物をするつもりだったのだが、なぜかあまり気が進まなかった。

 

 

9月28日 2


そろそろお腹が空いてきた。でも王立取引所の中のレストランは我慢して、がんばってテームズ川を渡るつもりだ。渡った先にあるテートモダンという美術館に行き、そこのカフェでテームズ川と反対河岸に見えるはずのセントポールのドームを眺めながらランチを取りたいのだ。
どうせ橋をわたるのならロンドンブリッジを渡りたい。
ところが道なりに歩いていったところ、なんと橋の下側に出てしまった。
もどって上の道から出直しだ。


ほらね、橋の下でしょう?


やっとたどり着いたロンドンブリッジの橋の上。
ここから撮ったタワーブリッジの写真がこのページのトップの写真である。
1894年に完成。

この橋をふらりふらりと歩きながら川を渡って反対岸に移動。
渡った先にはロンドンブリッジ駅があり、大きなバスターミナルもあって
何かごちゃごちゃとしているところだったが、右手に壮麗な建物が見えてきた。
そして左手にはバラ・マーケットという文字が。
バラ・マーケットは訪れると良い、とアドバイスを受けていたところなのだが、
金曜日と土曜日しか開いていないので、今はむなしく、空き地が広がっているだけ。
しかし、この美しい修道院にめぐり合えたことはうれしい。


サザーク大聖堂と呼ばれている。14〜15世紀にゴシック様式で建てられた。
もとは1106年にノルマン人によって立てられた小さな修道院だった。


その中庭ではベンチで昼食を楽しむ人たちの姿。
実はシェイクスピアがロンドンで居住していたのはこの地域であるという。
中にはシェイクスピアゆかりの品があるということを日本に帰ってから知った。


お休みのマーケット。
ロンドンブリッジ駅からでている電車の高架下がマーケットプレイスである。

お腹がすいてちょっといらいらしてきたわたしは早足になってどんどん歩いた。
川沿いの道にでたほうが気分が良いだろうと思い、川に向かう。



川のすぐ手前に船が。
いったいなんの船なのか。空腹なわたしは立ち止まって説明を読むゆとりもなく
写真だけでさようなら。
(日本で調べたところ16世紀の帆船ゴールデンハインド号を再現したものだそうだ)

 

9月28日 3


道の関係で少し川から離れたところを歩いていて、また発見。
いったいこの古くて古くて古いものは?????


ウィンチェスターパレスと読める。この説明板に使われているのは19世紀の古い版画である。
ロンドンにはかつて大火があったが、その後のこの地の様子らしい。

空腹のため、さらにそのまま歩を進めると、なんだかガードの下のような汚い一角にでてしまった。
あまり気持ちの良い雰囲気ではない。
壁に埋め込まれた丸い標識をみると、どうやらここらに昔、刑務所があったもようだ。
ガード下の暗いウィンドウにはなんだか怖いものが飾られている。
どんどん早足で通り過ぎたので写真も撮らなかった。
ただ通りの雰囲気は刑務所がもしあったらあまりにもぴったりなところ、とだけ申しましょう。
川を目指して歩く。


見えた!!
セントポールの大きなドームも見える。
左にとてもモダンな橋がかけられているのが見えるだろうか。


この橋はミレニアム・ブリッジという。

途中左手にシェイクスピア活躍当時の16世紀のグローブ座を復元したという円形劇場があり
見事であったが、空腹のため、急ぎ足で通り過ぎた。

そしてやっとの思いであこがれていたテートモダンのカフェにたどりついたわたしを待っていたのは
悲しい現実だった。
テートモダンももちろん入場料は寄付のみ。

もともと8Fのレストランに行くつもりだったのだが、「死ぬほど高くてサービスが悪い」と聞いていたのであきらめて2Fのカフェテリアを選んだ。眺めはまぁまぁ、と言う感じ。
食べ物は、ランチメニューの中から「きのこのガーリックソッテーのパスタ」を選び、コーヒーを頼んだ。
頼むまでが大変。長い間だれも注文を取りに来ない。混んでいるのはわかっているが
だからといってこんなに待たせるのか。
思わず手を上げて遠くを通りかかったウェイトレスを呼ぶと、「担当のものが行くから」と言う、身振り手振り。
しばらく待っていると近くを担当らしき人が通ったので声をかけると
「これを配ってから行きます」とお皿の載ったお盆をわたしに見せる。
「首だ」と心の中でつぶやく。
またやってきた食事が笑うしかないほどまずい。笑いながら食べた。空腹の勝利だ。
いったい一生懸命カフェを目指して歩いてきて、口に入るものがこれなのか。しかも11ポンドもとられた。
ウェイトレスの手際の悪さと気配りの無さ。
わたしが日本人ツーリストだから後回しにされているのかと思いきや、
回りのテーブルのイギリス人たちもみんな首が柱にまきつくほど長〜〜く伸びているではないか。
きょろきょろしながら辛抱強くウェイトレスが注文をとりに来るのを待っている。
よく文句をいわずにがまんできるものだと関心する。
わたしは心の中でここのウェイトレスを3回首にした。

テイトモダンは火力発電所をそのまま利用して美術館に作り変えたものなので、外見は古い四角ばったレンガ造りの建物なのだが、それがまた地味渋くてなかなかだ。そして中は新し美術館の匂いがしていた。展示場は広くてゆったりしているのだが、意外なほど観客が多い。19世紀末から今世紀にかけてのいろいろな作家の作品がテーマ別に展示されている。自分がみた3階ギャラリーは常設展に近いものだったと思う。おそらく5階のギャラリーが企画展でこちらは入場料が別途必要になる。

3階のギャラリーには地元の高校生のグループらしき生徒達が先生と来ていて、名画の前に陣取って模写をしているのには驚かされた。日本の美術館ではこんなに自由にさせてくれるかな。写真がだめなのは同じだが、日本では先のとがったものやペン、鉛筆は禁止されているのではなかったかな。
みんなのびのびと模写をしていて、見学者のじゃまにならないように静かにしていた。
(夫にこのへんの事情を聞いてみると、絵の額装の状態にもよるが、おそらく自国の資産であるか、日本の美術館のようにほとんどが借り物かによって対応は違うだろう、とのことだった。なるほど)

かなり見ごたえのある展示を見終えて、ミュージアムショップに行ってみる。
現代美術は夫の仕事とも関係のある分野なので、わたしも関心が高い。売り場面積はかなり広い。
一通り眺めたが、おみやげに買って帰りたいと思うようなのもは特にみつからなかった。

地下鉄のサザークの駅に向かう。
ところがわたしが持っている地図がわかりにくいのか、わたしが地図の読めない女なのか、
おそらくその両方のせいで、道に迷った。
あまり変なところまで移動しないうちに、と思い、親子連れをつかまえて駅の場所を聞くと、
「わたしたちも行くところだから一緒にいきましょう」とさそってくださった。
最初は離れて歩いていた。途中信号を渡ったりするたびに振り返ってちゃんとわたしが付いてきているか
お父さんが確認してくれる。きっと若くみえるんだろうなぁ、と勝手に想像する。
やがて奥様が話かけてきた。
彼女はリバプール出身なのだそうだ。「リバプールはもちろんビートルズで有名だけど、最近は中国人がとっても増えたのよ。中華街もできたわ。」という。もしかしたらわたしを中国人だと思っているのかもしれない。
わたしだってドイツ人とイギリス人が並んでいて国を当てろといわれたらわからないから、仕方が無い。
「2日前にはコッツウォルズに行ったんですよ。すばらしいところでした。」というと
「あなたスコットランドは行ったことある?」
「いいえ」
「いきなさいよ。すごくいいところよ。」
ですかさずわたしは「ええ、次は必ず行きます。ところであなたは日本に行ったことはありますか?」
「あら、日本からきてたの?わたしたち、行ったことないわ。」
などと話していると駅に着いていた。
とてもうれしかったので何度もお礼を言い、あちらのお父さんも
「ロンドンで楽しいホリディを過ごしてね」などと言い合ってお別れした。

このあとわたしは疲れきった体に鞭打ってSindyのために食器を買いにハロッズに向かった。
ハロッズはナイツブリッジという駅の近くにあり、「デパートの王様」とわたしは呼んでいる。
ハロッズの写真もない。さすがにハロッズの写真を撮ることは恥ずかしくてできない。
なつかしい2階のペットショップに行く。(実際は3階にあたる)
真っ白な陶器にあのロゴで「Harrods」と書かれた恥ずかしい食器を買う。
でもSindyには読めないからいいでしょう?

イギリスにはほとんどペットショップというものは存在しない。
みんなブリーダーから買うのだ。
ブリーダーのほうが家に訪ねてきて、「だめよ。庭がせまいじゃないの。」
などというらしい。
ハロッズでは子犬や子猫を売っているが生後4ヶ月以上にならなければ売りに出さない。
また展示時間は厳しく管理されていて、ある一定の時間展示してはクローズにして
動物達を休ませるようにしている。あくまで動物本位である。
また、たまたま展示時間だったので可愛いプードルたちを見ることができたが、非常に清潔で匂いなどは全くなかった。

街中でも本当に何回も犬たちをみかけた。繁華街では犬を連れたホームレスにも何人か出会った。
彼らはみんな大型犬を連れていた。大型犬は彼らのボディガードも兼ねているし、お互いに暖をとれるし、やはり家族なのだろう。抱き合って幸せそうに見えなくも無い。ホームレスの人たちの犬の治療費は国がだしてくれるので、ホームレスでも安心して犬を飼うことができるのだ。